中国SF「三体」がめちゃくちゃ面白かった話

目次

  1. 1. あいさつ
  2. 2. 「三体」とは?
  3. 3. 感想(ネタバレ無し)
  4. 4. 感想(ネタバレあり)
  5. 5. おわりに

あいさつ

今日は,「宇宙」・「天文」・「物理」といったワードが好きな人であれば誰しもが読むべきであろう中国SF小説「三体」のことを書こうかなと思います.
なんでまた…?と思われるかもしれませんが,端的に言ってめちゃくちゃ面白かったからです.以下,そもそも「三体」を知らない人にどういうものであるかを説明して,前半でネタバレ無しで感想を書いて,後半でネタバレありの感想を書いていこうと思います(反転を仕込んで配慮します).

「三体」とは?

中国の作家,劉慈欣による長編SF小説です.中国では2006年から「科幻世界」という雑誌で掲載されていたようで,国内では大変人気が高かったとか.その後ケン・リュウという中国系アメリカ人作家によって英語に翻訳され,来る2019年7月4日,日本語版が早川書房から出版されました.日本における発売から一週間経った現在,既に10版,8万部以上売れている今ホットなSF小説です.研究室関係で何人か中国人留学生と会う機会があったのですが,ほとんどの人が知っていました笑.ちなみに自分は発売されてサークルの後輩に「面白いので買え」とそそのかされるまで,この本はおろか中国SFというジャンルすら知りませんでした….

感想(ネタバレ無し)

そもそも私は活字を読むのが大変苦手なのですが,この本に至っては5日土曜に購入し,7日月曜夜には読み終わってしまうほど,まさに読み始めたら止まらない内容でした(ちなみに450ページほどあります).
文化大革命という毛沢東主導の革命時代からスタートし,現在までのエピソードが描かれます.史実に基づいたところがありつつも,当然要所要所にフィクションが仕込まれていて,これがとてつもないスケール感で進行していきます.「宇宙」・「天文」・「物理」といったものを少しでもかじったことがあるのであれば,思わず「そんなことある?!」と言いたくなるような,「豊潤な科学の知識をベースにした出来事だけれどもとにかく大きなこと」がたくさん起こるのです.それに対して,文章はある程度平易(中国人の登場人物が出てくるので名前に慣れていないとわからなくなりがちですが)で長くなく,自分のような語彙が少ない人間でもそれなりにスラスラ読み進めることができました(だからこそ読み始めると止まらない理由でもある).
とにかくネタバレ無しで感想を書くのは厳しい!ということで以下ネタバレありで書きますので注意.

感想(ネタバレあり)

ここからネタバレです↓(反転)

まずはあらすじから書いていきます. 時は文化大革命時代,中国の清華大学の天体物理学専攻の女子大生葉文潔は,父を革命派に惨殺され,信頼をおけると思えた人物に裏切られ,人類という存在に絶望しはじめる.その後,紆余曲折を経て「紅岸基地」という異星人を探すための観測所に所属し,研究を進めていた.ある時に紅岸基地から送られた地球上の文明の内容を説明する電波は,地球から約4光年離れたアルファ・ケンタウリあたりに位置する惑星に存在する「三体文明」に届く.その頃,文潔は太陽にある周波数,強度の電波を照射すると,とてつもない増幅率で放射されるという現象を発見する. 三体文明は冷酷な世界であり,いわゆる3つの太陽が存在する世界である.太陽が3つあると恒星の軌道は解析的に解けずいわゆる「カオス的」となって,惑星の周りを1つの恒星が安定して回る「恒期」と,その安定性が失われ,太陽は全く現れず(あるいは彼方で小さな飛星となって輝く)惑星表面を生きていけないほど冷たい環境にする,もしくは近くに出現し惑星表面を灼熱地獄にする「乱期」がランダムに現れる世界であった.そのような環境で,三体文明は幾度となく滅亡し,復興することを繰り返してきた.そんな中,前述した電波を三体文明のある平和主義者が受け取った.三体文明から見て,地球は一つの太陽が安定して周回する楽園である.三体文明は地球を征服しに行くに違いないと判断したこの平和主義者は,地球に向けて,もうこれ以上電波を送信して応答するなというメッセージを発する.彼の警告もむなしく,人類に絶望し,「人類が抱えている問題は人類の文明だけでは解決できない」と考え始めていた文潔は警告を無視して,「三体文明の力が人類には必要であるから,来てほしい」という旨の電波を送信する.ほどなくして,三体文明による「侵略」が始まる. 三体文明による「侵略」が始まった頃,ナノマテリアル科学者であった汪淼はある怪現象に悩まされる.自分が撮影した写真にのみ感光される,そして自分の網膜にのみ現れる,謎のカウントダウンが出現し始めたのだ.助けを求めに「科学フロンティア」の人間にあたると,解決法は「ナノマテリアル科学研究を中止せよ」ということであった.事実,そのようにすると謎のカウントダウンは停止し,出現しなくなった. 実はこの現象は,地球の科学の発展を止めたい(なぜなら三体文明が地球に到着するまで400年以上かかり,その間に地球の科学文明が発展して返り討ちにされては困るので)三体文明が放った「智子」というたった2つの陽子によるものであった.三体文明はM理論における11次元時空をミクロスケールで操作する技術を身に着けており,「智子」は陽子の11次元構造を2次元に展開し,その上に集積回路と人工知能を乗せて,もう一度もとの陽子に戻したものだったのである.この「智子」により,世界にある粒子加速器の実験結果は信頼できない(加速器の中に「智子」が出現してでたらめな実験結果をもたらす,しかもここでぶつかった「智子」は壊れず分裂できる)ものとなり,地球の素粒子分野の科学進歩は三体文明に遅れをとったままストップすることとなった(「智子」は11次元の存在なので閉じた3次元空間にも入ることができるし,亜光速で移動することもできる).また,この「智子」による感光現象が,汪淼を悩ませていたものだったのである. その頃地球では「地球三体組織(ETO)」という,文潔の思想から発展し,「人類など皆三体文明に滅ぼされるべきである」という思想をもったグループが同士を集めるために三体文明の興亡を見ながらその本質に迫っていくVRゲーム「三体」を製作していた.汪淼も,このゲームをプレイし,ETOに近づいていく.史警官と協力しながらその内部に潜入し,ついにはETOのメイン母体である船を壊滅させることに成功,三体文明の地球侵略計画を公のものとして知ることとなった.だが,「智子」に監視されている事実,あと450年もすれば三体文明が攻めてくるという事実に変わりは無く,来るべき戦いへの準備にせまられることとなる…. というのが最初の1巻の(おおざっぱな)内容になります.いくつか面白かったと思う点を挙げていきますね. まず面白い点として,文化大革命のような史実に基づいた内容が多く盛り込まれており,中国的かつ文学的な描写(といっても詳しくないので本当にそうかは不明ですが)が多く見られることが挙げられます.例えば文潔の過去の話で,彼女が紅岸基地を去った後近くの村で生活する場面があるのですが,貧しいながらも幸福に生きる様子は,今も貧富の差が大きい中国社会を反映しているのかなと思ったりもするのです.そして,このあたりも含めて要所要所に文学的な文章を入れ込んでくるのが良い.これによって,圧倒的なスケール感や,エモーショナルな情景が眼前に広がります. 次は,三体文明の存在と設定,そしてVRゲームです.3つの太陽があって,その軌道が解析的に解けないという設定の時点でなんだか凄まじいものを感じますね.前述のあらすじでは書きませんでしたが,三体星人はこのような環境の中で,やばいとなると,「脱水」することができるんです.体中の水分を抜いて皮だけになる感じ.なんだそれって感じですが,面白い設定ですね.そして,抜かしてはならないのはVRゲーム「三体」の存在です.ちょくちょく汪淼がこのゲームを進めていくうちにいくつかの文明が滅びる様子を読むことになるのですが,これがまた大変おもしろい.「円」とよばれる別の短編集のお話が盛り込まれていて,これは秦の始皇帝が数百万の黒と白の旗を持った兵士を使ってコンピュータを再現し,円周率を計算させるというものです.本作では三太陽の軌道計算のために同様のアプローチが取られています.このゲームが,地球文明と三体文明における,両文明それぞれの事情を対比的に描くためインタフェースとなっているということも重要なポイントであると言えるでしょう. そして最後,なにより面白いのは三体文明の侵略の仕方ですね.「智子」のお話などは本の最後部分に位置するのですが,圧巻です.陽子2個を送ってきた→それでどうやって地球の科学進歩を止めるのか?という流れが非常に秀逸で,この部分は読んでて特に止まらなかったポイントになります.陽子を2次元に展開するって思いつかんでしょ普通…笑.

おわりに

とまあ軽く書いてみたんですが自分の説明は下手くそなので,皆さんご自分で読んでください笑.とにかく面白いです.読み終わってからも,めちゃくちゃ続きが気になる一冊です.胸を張っておすすめします.私は写真が趣味で,一発目に見える表現が好きだったのですが,活字の表現力を改めて知ることとなりました….
皆さんも買いましょう.amazonリンクはこちら(アフィじゃないですよ!)